73歳になって、
ふと心に残っている後悔がある。
それは、富士山に登れなかったこと。
若い頃、
一度は頂上に立ってみたかった。
あの景色と、
自分の足で登りきった達成感を、
味わってみたかった。
だいぶ前のことだけれど、
友人たちと富士山の五合目まで行ったことがある。
風は冷たくて、
空はどこまでも青く、
快晴だった。
頂上には行けなかった。
でも、あの冷たい風と青空は、
今でもはっきり覚えている。
最近、そのことを思い出していたら、
胸の中が少しやわらいだ。
後悔だけだと思っていた記憶が、
やさしい思い出に変わっていることに気づいた。
人生には、
やり残したこともある。
でも、
ちゃんと心が動いた瞬間も、
確かにあった。
五合目で見たあの青空は、
今の私に、
「それでよかったんだよ」と
そっと言ってくれている気がする。

